弦楽器を極めた男
公式ハッシュタグランキング: 位 大学の片隅にある民族楽器の小さな博物館。今日は特別に触ることが出来る楽器も用意しているため普段は閑散としている場所だが、そこそこの賑わいを見せていた。
「順番に見ますか?」託生が問うと、「託生は何度も来てるんだろ?託生が気に入ってるものを案内してくれないか」 人混みではないので、手は繋がれなかったが、ぴったりと躯を寄せられているので、本当にデートそのものだった。「じゃあ二階の展示室から行きましょうか」 二階の展示室にはアジアに伝わる
弦楽器が中心に置かれていた。 託生は90センチほどの竿を持つ
弦楽器を手にした。共鳴胴の部分は大きな瓜で出来ているような形をしていた。展示してあった金属爪を着けた託生が弦を軽く弾いてフレット沿いにぐっと引っ張る。すると「ビヨヨーン」という文字が飛び出してきそうな音が響く。音の余韻がゆらゆら揺れるのも印象的な音。「面白い音だな」くつくつとギイは笑って「でも何処かで聴いたことがあるような……」 顎に指を当てて思案するギイにもう少しだけ音を出して見せると、わかったぞ!と手を打った。「カレー屋で流れてた音楽だ」「ふふ、正解です。インドカレーのお店ですよね?シタールって楽器なんですけど如何にもインド音楽っていう感じの面白い音色ですよね」「あぁ、カレーが食いたくなった」「ええ?!さっきあんなに食べたのに?」「カレーは別腹っていうだろ?」「ぶっ……そんなの聞いたことない」 楽しそうに笑う託生の笑顔が眩しくて、ギイは思わず目を細めた。「滅茶苦茶うまいインドカレーの店があるんだよ。カレーは勿論絶品なんだが、チーズが入ったナンが旨くてな。店も湘南の海沿いのいいところにある。ドライブがてら行ってみないか?」 ギイの提案は託生にとって凄く魅力的だった。ギイと海を見ながらドライブなんてしたらどんなにか楽しいだろうか。「そうですね……行きたいな」 思わず、本音を漏らしてしまうと、ギイの淡い茶色の瞳が大きく見開かれた。「本当か?!」 想いに応えるわけにいくまいと、いつもは必死に捻り出す断りの言葉がどうしても出なかった。二人で海沿いをドライブして食事をしたら……想像しただけで夢でも見てるように幸せだった。そんな夢など見てはいけないのに。とても嬉しそうな笑顔に託生は逆らえなくてこくり、と頷いてしまう。「楽しみだな、いつにするか?来週末は?」「あ……日曜日はバイトなんで土曜日だったら……」「よし、じゃあ土曜日にしよう」「あの……スケジュール確認しなくて大丈夫ですか?マスターは本当は崎さんは物凄い忙しい人だって……」「託生とデートだぞ?絶対に調整するから大丈夫だ」 そう言ってぱちり、とウィンクを決める様は映画か何かのワンシーンのように美しかった。ぼんやりとギイを見つめてしまう託生に「あれは中国のニ胡?」 同じアジアの
弦楽器が置かれたコーナーの真ん中に鎮座する長細い楽器を見付けてギイが尋ねる。「あ……そうですね。ニ胡です」「ニ胡は託生弾けたりするのか?」「ちょっとだけなら……」 弾いてみてくれと促されて、ニ胡の側に置かれていたパイプ椅子に座り、腹部と腿で共鳴胴を挟むように固定する。少しの間音を確認するように鳴らしたのち、託生はその古くから中国に伝わる楽器を奏で始めた。 アジアの風を感じさせる不思議な音色は、託生の黒い髪と瞳にとても似合っていた。悠久の大陸を感じさせる音色を奏でる託生ははっとするほど色っぽくて、ギイは瞳を奪われた。いつの間にかそのフロアにいた全ての人々が託生の演奏に惹かれて気付くと人集りが出来ていた。弾き終わると拍手が起こり託生は恥ずかしそうに微笑んだ。「ラスト・エンペラー?上手いな……さすがだ」ギイが尋ねると託生は頷いた。「去年の忘年会で演奏したとき練習したので」照れたように睫毛を伏せて静かに笑う。「託生はやっぱり民族楽器でも
弦楽器が好きなのか?」「
弦楽器も好きですけど、他のも好きかな。太鼓とかなんか、綺麗なものも多くて見ているだけでも楽しいし、笛も動物の骨とか角とかを上手く利用したものが面白いんだ。昔の人が音楽を楽しんだのが凄くよくわかって……そうだな、次はアフリカの打楽器のコーナー行きたいかも」 楽しそうに語る託生の口調が少しずつ砕けてきたのを感じてギイも口唇の笑みを深くする。「あぁ、いいな。連れて行ってくれ」 ギイの大きなてのひらが託生に向かって伸ばされた。託生は自然にその手を取っていた。
*****「ははは……崎さんってば太鼓だけは上手なんだもん」思い出して笑いが止まらない託生。「リズム感は悪くないからな……って太鼓だけってなんだよ、失礼だぞ」ギイが託生の額を軽く小突く。二人で博物館を楽しんだ後、外に出る。「喉渇かないか?何処かゆっくり座れるところでお勧めあるか?」ギイが繋いだ託生の手を自分の方へ軽く引いて耳元にささやく。「僕がいつも行くカフェテリアなら大学の端っこだからそんなに混んでないかも」「じゃあ、其処にするか」 二人並んでゆっくりと歩く。他愛のない話ばかりだったが、ギイは心を開き始めてきた託生がよりいっそう可愛く見えて愛しくて仕方なかったし、託生は誰かと触れあっても産まれるものが嫌悪感ばかりでないことに気が付いて夢見心地であった。胸がどきどきして、ふわふわして……カフェテリアに向かう静かな小路を歩いていたそのときだった。
ぽつり………
冷たい雨の雫が託生の頬に当たった。そのとき、まるで電流が走ったようにびくり、と託生の背が戦慄いた。「託生?……ああ、雨か。急ごう………託生……?」ギイが声を掛けると、其処には青褪めた託生がいた。「ごめ……ごめんなさい………僕……」ちいさく震える託生の肩。ギイが託生の変化に戸惑っているうちに、雨足はどんどん強くなり二人を濡らす。「託生?!」繋いだ手を振りほどいて託生は雨の中走り出した。
『誰があんな託生なんか愛してくれるものか────』
強くなる雨の雫が髪を、肌を濡らす。その冷たさと不快感に言い様のない嫌悪が沸き上がる。
(なんで────今更、雨なんかで……っ)
『思い上がりだよ、託生……あんな人、お前なんかと釣り合うと思ってるのか?』 嘲笑うような、誰かの、声。『あんたなんか私の子じゃないっ』 もうどうでもいいと、忘れたと思っていた母の叫び声。 託生は雨の中聞こえる声を遮断するために耳を塞いだ。聞きたくない、聞きたくない─── でも、託生を責めたり、嘲笑ったりする声は一向に止まなくて、何処へ逃げたらいいのかも解らなくて、人の気配が少ないバイオリン棟の裏の植え込みに走り込む。『お前は卑しい人間なんだ……』 耳の奥で聞こえた声に膝から力が抜けて崩れそうになったところで
「託生っ!」
(……っそうだった───) マスターがいつだったか言ってた。ギイは運動部でもないのに、クラスで一番足が速かったって。 色を失った雨の中、彼の着ているポロシャツの色が眩しいほどに鮮やかだと思った次の瞬間。 腕を強く引っ張られて温かいところに引きずり込まれた。胸いっぱいに広がるギイの香り、体温───このまま、身を任せたらどんなにか心地いいのだろうか。全てを任せてしまえたら、いいのに。
(でも………僕には愛することも、愛されることも無理だ……)
震える腕で逞しいギイの胸を押し返した。本当はどうにかなりそうなくらい、この逞しい胸に縋り付いてしまいたかった。でも同じくらい全てを知られてあの優しい瞳を失うのが怖かった。
「教えてくれ、どうして、急に、こんな……」「……すみません……っ……も、大丈夫だからっ……」「大丈夫って顔じゃないだろう?!一体何がっ」「大丈夫です……あ……僕もうすぐ打ち上げだから、行きますね……」 ギイの胸から離れて、心配させないように笑って見せた。それから……「あと……デートの約束したけれど、僕やっぱり行けません」そう言って「崎さん、さようなら」と、託生は身を翻してバイオリン棟の中に駆け込んだ。 全てを拒絶するような背中に今度こそギイは後を追えなくて、伸ばした指先が虚しく宙を彷徨った。
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最近、秋に近づくにつれ湿度変化が大きくなっています。みなさま、楽器の管理にはお気を付けくださいね。 みなさんは新しいものをすぐ試されるタイプですか(・・? 私はお客様や知人などに言われるとすぐなんでも試すタイプです。(*'▽') 先日、お店に来られた先生が 先生 「MAGIC ROSINって松脂を使ったことありますか?」 わたし 「あっすいません。使ったことありません。(>_<)」 先生 「僕も使ったことないんですけど良いって聞いたんで。」 MAGIC ROSINとはこちらの松脂です☟ 特に最近発売された松脂でもなく、なんか見た目がポップなデザインで
弦楽器っぽくなかったので(笑)あまり気にも留めてませんでした。 では早速、使ってみることに。(^.^)/ 「あっ、ポップな見た目とは違い良い。」 一音一音がきれいに出せる。 松脂の粒子が細かくノリも良い。 適度な引っ掛かりもある。 というのが私の率直な感想です。 お好みもあるかとは思いますが バイオリン・ビオラ・チェロ どの楽器でもお使いいただけると思います。 ちなみに使っていくと下の模様は見えなくなります。(笑) 気になる方はサンプルでお試し下さいね。(*^_^*) ↓↓ランキングに参加しております
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