メディアアートとしての弦楽器
公式ハッシュタグランキング: 位 2017年6月某日、HIFIMAN HE1000 V2を購入しました。購入の動機は、それまで私の愛機だったaudio-technica ATH-W5000のポテンシャルの限界が見えてしまった事です。そもそも初めはW5000の能力を引き出すためにJPLAYやクロック等上流の機器に手を出し始めたはずなのですが、手を加える度に増していく音の純度や情報量の上昇にW5000が処理しきれなくなっていくのを常々感じるようになってしまいました。オーディオとは不思議なもので、自宅等の聴き慣れた環境で段々と機器のレベルが上がっていくと、その時点でどの部分がボトルネックになっているのか感覚で分かるようになってしまうんですよね。それはUSBケーブル等のシステム全体に与える影響としてはかなり小さい箇所でも感じるので、やっぱり人間の感覚って繊細なんだなとつくづく思います。 私が新たなヘッドホンを購入するに当って候補として考えていたのが、まずこのHE1000 V2、次いで同じ平面駆動型のAUDEZE LCD-4、そしてダイナミック型のFocal Utopiaでした。と言ってもこれらハイエンドヘッドホン3機種をとっかえひっかえして比較試聴できる機会なんてそうそう無いので、春のヘッドホン祭で各ブースに何度も通って納得いくまで試聴してきました。三つのブースの中で印象的だったのはFocalです。Focalだけは個室で区切られていてスタッフの方々が何名も常駐していたので、頻繁に通うのは若干気が引けましたが、皆さん嫌な顔一つせず対応してくださったのでとてもリラックスして試聴することができました。(HIFIMANとAUDEZEはほぼ放置状態でした)もちろん三機種それぞれ繋いでいるアンプやプレイヤーが違うので純粋な比較は出来なかったのですが、それぞれの特徴はある程度把握することができました。最も情報量が多く迫力とキレのあるUtopia、音のバランスとオールマイティさでは随一のLCD-4、音場と独特の音色、滑らかさに秀でたHE1000 V2というのが私が感じた印象です。どれも素晴らしいヘッドホンでした。おそらくどれを選んでも結果として満足のいくものだったと思います。ですが、その中で試聴用に持ち込んだCDの女性ボーカル、ピアノ、
弦楽器を最も美しく鳴らしていると感じたのがHE1000 V2でした。またその時点で私が使用していたアンプやDAC、ケーブル等はあまり自分の色を持たないタイプばかりでしたので、最後の音の出所で色を乗せられる、というのが自分の中で腑に落ちました。 箱は高級感溢れるレザー仕様中にはオーナーズガイドが入ってます(内容は薄い)ケーブルは着脱式で、2.5mmステレオミニプラグを採用いずれKIMBER CABLEのAXIOSを注文する予定ですヘッドバンドも高級感あるレザー金属の生々しい質感が男心をくすぐりますイヤーパッドの触感も良く、不快に感じる事はありません。AUDEZEのLCDシリーズと同様に耳を全て覆うタイプのイヤーパッドです。以前所有していたLCD-2とHE1000 V2の装着感を比べると、前者の方がより頭全体にぴったりフィットして頭とヘッドホンが一体化する感覚があります。一方後者は頭に乗せるという感覚が強く、より優しい感じがします。どちらも重量級のヘッドホンですが、フィット感が良いので重さを感じる事はほとんどありません(人に依ります)少なくとも私は休日に一日中付けていても問題ありませんでした。 音質のレビューまず一聴して圧倒的な音場の広さに驚かされます。私が今まで密閉型を多用していたというのもありますが、この音場の広さは聴いていて非常に気持ちがいいです。また音場が広いからといって定位が疎かになる事も無く、広い空間の中でしっかりと音像が定まります。 音の特徴としては高音に特筆すべきものがあり、美しく妖艶でどこまでも伸びていく感覚を覚えます。HE1000 V2の音の中で最も色を感じるのがこの帯域です。驚いたのが録音の悪いソースを聴いた時で、今まではキンキンに不快に響いていた高音がHE1000 V2の前では悠々と気持ちよく鳴ってしまうのです。録音が悪いという事で敬遠していた音源を楽しく聴けるようになった事は、私のリスニングスタイルを根本から変える素晴らしい出来事でした。嬉しいというより感謝の念の方が強いくらいです。 低音は十分な量感があり濃厚です。他の帯域よりは若干控え目ですが、締まりの良い上質な低音が広い空間に響き渡ります。しかしダイナミック型の輪郭を切り取ったようなエッジの効いたキレのある低音とは違い弾力のある弾むような音なので、好みが分かれる部分ではあると思います。特にリズミカルな打ち込み系のソースは違いが出やすく、購入を検討している方は一度そういった音源で試聴しておいた方が良いかもしれません。 ボーカルは非常に美しく滑らかで繊細、思わずうっとりしてしまう程ですが、ソースによっては若干声が遠く感じる事があります。しかしそれはケーブル等で十分に調整可能な範囲であり、むしろ気にし過ぎて近づけ過ぎると逆に美しさが損なわれてしまう難しい部分でもあります。私はむしろそういった部分にHE1000 V2の面白さを感じます。アクセサリー等の些細な違いもしっかり拾って音に反映させる繊細さを持っているので、自分の理想を追及してバランスを整えていくのがまた楽しいですね。 良く言われる駆動の難しさについてですが、私が使用しているHPA-206はHE1000 V2を十分に駆動できていると感じます。小音量で聴いてもバランスが崩れませんし、大音量じゃないと本来の音が出ないなんていう事もありません。前回のブログで記述したHPA-206の強い押し出し感や分離の良さはHE1000 V2の長所を損なう事が無く、逆にHPA-206の苦手な空間表現はHE1000 V2の広大な音場が補ってくれます。その一方で、HPA-206より価格帯の低いaudio-technicaのHA5000で聴いてみると、やはり質的な部分でつり合いが取れていない印象を持ちます。音量自体は問題なく取れるのですが、高域の伸びの部分で違和感を覚えます。やはり最低でも20万~くらいのグレードのアンプは欲しいかなと個人的には思いました。アンプを選ぶ際の基準としては、基本性能が高く自分の色をあまり持たないタイプの方がやはりHE1000 V2には合うんじゃないかなと思います。マス工房やオジスペなんかは相性が良さそうです。もちろんHPA-206も十分おすすめ出来る組み合わせだと思います。またHE1000 V2に於いてバランス駆動は個人的に必須項目です。音の分離、空間の広さ、立体感、あらゆる面でシングルエンドを上回っていると感じます。嬉しい事にHE1000 V2には4ピンバランスケーブルが付属していますので、是非4ピンバランス出力のあるアンプを選ぶ事をおすすめします。 総じてHE1000 V2は素晴らしいヘッドホンだと思います。値段は30万円台とかなり高額ですが、その音質は十分価格に見合うものだと思います。私としては下手に10万円台のヘッドホンを複数使い分けるよりも、ハイエンドを一つ決め打ちした方が満足度が高いと思いました(個人の意見です)ずっと使っていきたいと思える素晴らしいヘッドホンに出会えた事に感謝します。HE1000 V2のレビューでした。 あとは数十万クラスのW5000後継機密閉型が出たら欲しいですね。オーテクさん待ってます。
弦楽器 イイこと、プラス。
Elton Johnで「Skyline Pigeon」。
チェンバロ(=クラヴサン、ハープシコード)。
その歴史は古く、
“強弱をつけて弾くことのできるチェンバロ”
として改良されたのがピアノであると、
何かに書いてありました。
華美な装飾が施されたものも多く、その華奢な撥
弦楽器は
フランス革命においては貴族の象徴として叩き壊され
燃やされたというチェンバロ。いや、クラヴサン。 クラヴサンはフランス語。
漫画で覚えました。
「バロック・ポップ」。
「バロックンロール」「バッハ=ロック」などとも称された
それは、ロック/ポップスにクラシカルな要素(使用楽器や編曲)を
取り入れたもので、60年代後半に流行した音楽の一様式。
ポピュラー音楽には馴染みの薄かった、殊にチェンバロは
多くの楽曲に使用されました。
もっとも、チェンバロがポピュラー音楽に使用される例は
古くはローズマリー・クルーニーやペギー・リー等、
50年代からあったもの。 しかしながら、60年代後半のチェンバロ・ブームの兆しは、
ビーチ・ボーイズやローリング・ストーンズ、
ママス&パパスなどが使いはじめた64年~65年。
とはいえ、それらのサウンドにはまだバロック的要素はありません。
バロック的なニュアンスをロック・サウンドに導入し、
最初に(?)ヒット・チャートを賑わせたのはレフト・バンクで、「いとしのルネ」「夢みるバレリーナ」(ともに66年)のヒットで知られる
(ブリティッシュ・ロックに影響を受けた)アメリカのグループです。
「バロック・ポップ」という形容も、もともとは
このグループのサウンドに対するものでした。
ただ、ここからは推論になりますが、
その「バロック・ポップ」誕生に
直接的な影響を与えたのはひょっとしてビートルズの
「In My Life」(65年)ではないかと思っています。 有名な話ですが、
「In My Life」の間奏のバロック的なピアノ・ソロ(1:30~)は
半分のテンポで演奏されたものを倍速にしているため、
チェンバロのような、とまでは言いませんが、高めの音になっています。
演奏はプロデューサーのジョージ・マーティンで、
その演奏に「エリザベス朝のピアノを弾いてほしい」
と注文をつけたのはジョン・レノン。
(「Yesterday」(65年)で、いち早く
弦楽四重奏を取り入れたポールではなく)
それを聴いた数多くのミュージシャンのひとりがレフト・バンクの
当時16、7歳(!)のマイケル・ブラウンであり、
「In My Life」のピアノ・ソロ部分を拡大解釈して生まれたのが
「バロック・ポップ」ではないかと。
そして、イギリスでもほぼ同時期に、
これぞ「バロック・ポップ」と呼ぶべき楽曲が生まれていました。
それは、66年5月にホルンやクラヴィコードを取り入れ
レコーディングされた、ビートルズの「For No One」
(同年8月発売のアルバム『Revolver』に収録)。
レフト・バンク「いとしのルネ」が発売されたのは66年7月ですから、
ほぼ同時期ということになります。 The Left Bankeで「いとしのルネ/Walk Away Renee」。
さて、今まで意識的に接していなかった対象が
突如気になりだすということがあります。
エルトン・ジョンのデビュー・アルバム
『Empty Sky』(69年)を聴いていた、
今から半年以上も前のこと。
その中でもっとも好きな「Skyline Pigeon」は、
ピアノではなくチェンバロがメインとなる珍しい楽曲で、
そのきらめく音色に耳を傾けていると、
唐突に、猛烈に、その楽器に興味が湧いてきました。
そして、そんなタイミングで(必然的に?)
現代のクラヴサン奏者、ジャン・ロンドー(1991年生まれ)を
知ったのも大きく作用しました。 そういえば、クイーンでもっとも好きな曲
「The Fairy Feller's Master-Stroke」(74年)にも
チェンバロが(クイーンの楽曲で唯一?)使われているし、 ボンゾ・ドッグ・ドゥー・ダー・バンド
「Music For The Head Ballet」(67年)にも、 ドアーズ「Wintertime Love」(68年)にも、 ゾンビーズ「Imagine The Swan」(69年)にも、 ジョブライアス「Morning Star Ship」(73年)にも、 ダムド「Grimly Fiendish」(85年)にも、 ディヴァイン・コメディ「A Lady Of A Certain Age」(06年)にも!
ほかにもビートルズ「Piggies」(68年)や
キンクス「Village Green」(68年)など、ことごとく、
そのアーティストの楽曲の中でも
とりわけ好きなものばかりが思い浮かびます。
そうなってくるとさらに、今まで無意識に聴いていた
チェンバロと楽曲の関係性が気になりはじめました。猛烈に、ほんとうに呆れるほど今更ながらに。
果たして、自分が魅かれる楽曲に
たまたまチェンバロが入ってることが多いのか、
はたまたチェンバロが入ってるから好きになる傾向が強いのか。
恐るべきチェンバロの作用と効果について
ふたつの仮説を検証してみようと思います。
ひとつ、チェンバロを使用した楽曲は
そのグループ/アーティストを代表する、或いは作者当人にとって
とっておきの楽曲である可能性が高いのではないか?
そしてもうひとつは、チェンバロを使用した楽曲は
自分の琴線を揺らす確率が高いのではないか?
そんなことを考えながら、この半年間、
手元にあるロック/ポップス系
――当たり前のクラシックは含まず――のCDの中から
チェンバロ(代用音含む)を使用した楽曲を、
ひたすら“耳”で探し出すことが日課となりました。
とはいえ、半年間で聴くことのできるCDの枚数など
たかが知れてます。ゆえに、例えば
キーボード奏者がメインとなるグループ/アーティストには
たくさんありそうだ、などとある程度アタリをつけて。
ところがいざ調べてみると意外とそうでもなく、
全アルバムを聴いたアバやビリー・ジョエルはわずかに1、2曲。
いっぽうで、もっとも多かったのは、
――無論、所持するCDの偏り具合にもよりますが――
(キーボード奏者ではない)ニール・ハノン=ディヴァイン・コメディ。
ただ流行っていたから使ったのか、
チェンバロを使う必然性がまったく感じられない楽曲や、
1回聴けば充分(失礼)なものもそれなりの数、
なくはありませんでした。
また、1枚のアルバムにあんまりたくさん入ってると
さすがにちょっと眠くもなりますし、
チェンバロはビートルズ(及びソロ)にはさほど、
デヴィッド・ボウイにはまったく(?)人気がないことなど、
さまざまな発見がありました。
あとは下に掲載するリストをご覧いただければと思います。
たった半年ではありますが、自分が所有するCDの中から
300曲余りの“チェンバロック”を探し当て、
聴き込んだ検証結果は果たしてどうだったのか。
「チェンバロを使用した楽曲は
そのグループ/アーティストを代表する、或いは作者当人にとって
とっておきの楽曲である可能性が高いのではないか?
そして、(チェンバロを使用した楽曲は)
自分の琴線を揺らす確率が高いのではないか?」
答えは、上にも少し書きましたが、
そんな単純な公式が当てはまるわけがないということ。
(なんと短絡的な仮説!)
最初に思い浮かんだのがいい曲ばかりというのも、
裏を返せば、好きな曲だからこそ思い浮かんだのであって、
自分の好みにヒットしたのは全体の3割強の100曲ほど。
悪くない確率です。でも、それは“自分が(選んで)買ったCD”なのですから当然確率は上がるに決まってます。
そしてなにより、自分にヒットした楽曲の多くは
チェンバロがあろうがなかろうが、“いい曲”なんだと思います。
*
ほとんどのCDには使用楽器の細かい記載がなく、
所詮、素人の耳ゆえ間違いは当然あるでしょうが、
――紛らわしいのはアコースティック・ギターの音――
この半年間で作成した、“チェンバロック”リストです。
(ビートルズ関係とストーンズに関しては
藤本国彦氏に協力を仰ぎ、また、プレイリスト作成の都合上、
存在を確認するも、自分がCDで所有していない楽曲は除外) 2017年9月14日現在。
チェンバロック “伝道師” Top 3
01. Michael Brown
(The Left Banke~The Montage~Stories~The Beckies)
02. Neil Hannon(The Divine Comedy)
03. Roger Joseph Manning Jr.(Jellyfish)
チェンバロック “(チェンバロの)純度高め” Top 3
01. Elton John「Skyline Pigeon」
02. Gilbert O'Sullivan「Permissive Twit」03. Bonzo Dog Doo-Dah Band「Music For The Head Ballet」
チェンバロック “ブランニュー” Top 3
01. The Divine Comedy「To The Rescue」(16年)
02. Marc Almond「Life In My Own Way」(15年)
03. Paul McCartney「New」(13年)
チェンバロック “(チェンバロの)出番少ないけど” Top 3
01. Jellyfish「Bye Bye Bye」
02. 永井ルイ「Make My Day!」
03. Yes「Siberian Khatru」
チェンバロック “モータウン” Top 3
01. The Jackson 5「I'll Be There」
02. Diana Ross & Marvin Gaye「My Mistake (Was To Love You)」
03. Smokey Robinson & The Miracles「The Tears Of A Clown」
チェンバロック “総合” Top 20(1アーティスト1曲縛り)
01. The Stranglers「Golden Brown」
02. Queen「The Fairy Feller's Master-Stroke」
03. The Doors「Wintertime Love」
04. The Zombies「Imagine The Swan」
05. Stackridge「Fundamentally Yours」
06. The Divine Comedy「Death Of A Supernaturalist」
07. Elton John「Skyline Pigeon」
08. The Move「Blackberry Way」
09. The Beatles「Piggies」
10. The Kinks「Village Green」
11. The Rolling Stones「Dandelion」
12. The Beach Boys「Wonderful」(Smile version)
13. The Jackson 5「I'll Be There」
14. Gilbert O'Sullivan「Permissive Twit」
15. Roger Joseph Manning Jr.「Dragonfly」
16. Jobriath「Morning Star Ship」
17. Stories「Words」
18. The Partridge Family「I Think I Love You」
19. The Cyrkle「Please Don't Ever Leave Me」
20. The Damned「Grimly Fiendish」
*
My all-time favorites
#214
今回の検証でもっとも自分で驚いた(呆れた)発見はこの曲。
もっとも好きなパンク・バンドの、もっとも好きな曲のひとつ。
しかも高校生の時から聴いているにもかかわらず、
聴こえてるのに無頓着。
81年、シングル・チャートで全英2位の大ヒットを記録した
曲は、The Stranglersで「Golden Brown」。 ブランニュー “チェンバロック”、
The Divine Comedyで「To The Rescue」。